KATOU ICHIKOU

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UFO

 朝、駅までのいつも通りの道のりをいつも通りに歩いていると、空からすごい速さでUFOが現れて、目の前を歩いている人をさらって、またすごい速さで飛んで行った。
 私はびっくりして、腰をぬかして慌てふためくべきだったのだけど、その時私はちょうどぼーっとしている最中で、目と頭の焦点が視線の奥行き方向にたぶん20センチくらい離れていて、本当の焦点があるはずの部分とそのずれた焦点との2つの間のぼんやりとした風景を眺めているところだったので、「UFO」と今とりあえず言ってみたそれは結局のところ、どんな形だったのかも何色だったのかも良くわからないものが空というか、ぼんやりとしたカラフルな視界の上の方から降ってきて下の方で何やら揺れ動いてまた上の方に流れて行ったような、上から大きくUの字を描いてふわふわぼんやりと漂って消えて行ったということだった。頭の回転もちょうど2周くらい遅れていた時だったので、そのUFOみたいなものがぼんやりとUの字を描いて消えて、次にぼんやりとしたミジンコみたいなものが視界の左の方に見え始めた頃になってUの字に何かが流れたなと気がついたほどだった。怠け者の私の目と違って私の耳は、前を歩いていた男の必死の叫び声を、iPhoneがシャッフルでこの時演奏していた難聴になる程の音量のビーチ・ボーイズの軽快な音楽をかき鳴らす純正イヤホン越しにリアルタイムにうっすらと聞いた。だから私はこんなぼんやりとした状況でいても、今大変なことが起こったということは耳の情報から瞬時に感じ取ったはずなのだが、何かが起こったことを知っただけであって、ビーチ・ボーイズの英語だから何を言っているかわからないけどあんま考えちゃダメだよ、楽しけれりゃいいじゃん。楽しいことだけしていこうよという私の勝手なイメージはこの場の状況判断の必要性を波乗りのように軽々と乗り越え、イヤホンを外すことさえせず、つまりは何も起きなかったのと変わりなく、だから私は相変わらず今そのままの足取りで、いつも通りの道のりをいつも通りに歩いている。

防災の日と震災とベローチェ

 ラジオが、今日は防災の日だと言っていた。
「避難場所と避難所とでは、違うんです。避難場所は災害から緊急かつ一時的に避難する場所、避難所は災害により住居を確保することが困難になってしまった住民のためにその場所を提供する施設のことです。災害があった時にはどこに避難するか、最低でも二ヶ所は想定しておかなくてはいけません。震災による二次災害、火災にも注意が必要ですし、人間雪崩の可能性もありますから、人混みや狭い通りは避けた方がいい場合もあります。1メートル四方に五人以上人がつまっているような混雑した場所では、人間雪崩の可能性が高くなります。」


 もしそうなったら、どこに避難する?と妻が聞いたので、ベローチェ。と答えた。んもう。と妻は笑った。


 震災の日、職場から5時間かけて歩いて帰った。信号は機能せず、微動だにしない環状線の渋滞を歩いて追い越した。数え切れないほどの事故と、いくつかの喧嘩を見た。住宅街に入ると、道路は海みたいに波打ったまま固まって、家々は崩れて中身がはみ出ていた。
 アパートに帰る道は自衛隊が封鎖していた。火事が起きているから通ってはいけないと言われた。ベローチェに行った。ベローチェだった塊の前で、妻が泣きながら笑っていた。コーヒーは出そうにないねって言って、僕も泣いた。

夜寝る時、おなかの上に黄土色のフォックスが寝そべっている想像をしてみる

絵本を書きました。

「夜寝る時、おなかの上に黄土色のフォックスが寝そべっている想像をしてみる」

 

 

素材:鉛筆、色鉛筆

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