KATOU ICHIKOU

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ジャコメッティ

 ジャコメッティはつくしみたいなものを作った。それは人だけど、僕にはつくしみたいに見えたし、つくしみたいなものにしか見えなかった。つくしみたいなもので素晴らしいのか、つくしみたいなものでつまらないのかということはその時は考えなかった。今どっちだろうと考えても良くわからないし、素晴らしいとかどうとかということじゃないような気もした。僕はそんなに感情的なタイプではないのかもしれなかった。
 
 長細く引き伸ばされた人の身体が、錆びた鉄や、錆びていない鉄のような色の金属で作られていた。キャプションにはブロンズと書かれてあった。ブロンズが鉄のことなのかどうか、僕は知らないし、調べる気も特にない。鉄だろうと鉄じゃなかろうと、鉄に見えるのならそれは鉄であって、それをブロンズと呼んだとしてもとりあえず今この場合には差し支えなかった。
 
 展示室の入り口から出口までの間に、つくしみたいなものはたくさんあった。たくさんあったけど、僕は一つ見ればもう十分だと思った。二つ目も三つ目もつくしみたいなものだったから、そう思った。二つ目以降のつくしみたいなものは、一つ目のつくしみたいなものと大した違いがないことだけさっと確認しただけだった。多くの人は18個目のつくしみたいなものも、25個目ののつくしみたいなものも、一つ目のつくしみたいなものと同じように一生懸命に、良く見ようとしていた。近寄ったり離れたり、角度を変えて見たりしていた。僕はつくしみたいなものを一生懸命見ようとしているお姉さんのお尻や、爺さんの靴なんかを見て過ごした。
 途中にあった絵は何かすごい感じがしたので立ち止まって良く見た。良く見ていた僕のお尻を誰か見ていただろうか。僕は後ろを振り返って確認したりはしてないのでわからないけど、たぶん誰も僕のお尻など見ていなかっただろう。みんな見たいのはお姉さんのお尻なのだろうから。