KATOU ICHIKOU

■ダイアリー/エッセイ/小説などのオリジナルコンテンツを掲載

UFO

 朝、駅までのいつも通りの道のりをいつも通りに歩いていると、空からすごい速さでUFOが現れて、目の前を歩いている人をさらって、またすごい速さで飛んで行った。
 私はびっくりして、腰をぬかして慌てふためくべきだったのだけど、その時私はちょうどぼーっとしている最中で、目と頭の焦点が視線の奥行き方向にたぶん20センチくらい離れていて、本当の焦点があるはずの部分とそのずれた焦点との2つの間のぼんやりとした風景を眺めているところだったので、「UFO」と今とりあえず言ってみたそれは結局のところ、どんな形だったのかも何色だったのかも良くわからないものが空というか、ぼんやりとしたカラフルな視界の上の方から降ってきて下の方で何やら揺れ動いてまた上の方に流れて行ったような、上から大きくUの字を描いてふわふわぼんやりと漂って消えて行ったということだった。頭の回転もちょうど2周くらい遅れていた時だったので、そのUFOみたいなものがぼんやりとUの字を描いて消えて、次にぼんやりとしたミジンコみたいなものが視界の左の方に見え始めた頃になってUの字に何かが流れたなと気がついたほどだった。怠け者の私の目と違って私の耳は、前を歩いていた男の必死の叫び声を、iPhoneがシャッフルでこの時演奏していた難聴になる程の音量のビーチ・ボーイズの軽快な音楽をかき鳴らす純正イヤホン越しにリアルタイムにうっすらと聞いた。だから私はこんなぼんやりとした状況でいても、今大変なことが起こったということは耳の情報から瞬時に感じ取ったはずなのだが、何かが起こったことを知っただけであって、ビーチ・ボーイズの英語だから何を言っているかわからないけどあんま考えちゃダメだよ、楽しけれりゃいいじゃん。楽しいことだけしていこうよという私の勝手なイメージはこの場の状況判断の必要性を波乗りのように軽々と乗り越え、イヤホンを外すことさえせず、つまりは何も起きなかったのと変わりなく、だから私は相変わらず今そのままの足取りで、いつも通りの道のりをいつも通りに歩いている。