KATOU ICHIKOU

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月がでかいから、どっか遠くでサイレンが鳴っている。

 
 月がでかい。どっか遠くでサイレンが鳴っている。
 月がでかいから、どっか遠くでサイレンが鳴っている。月がでかい夜はみんな何かやらかすから、ウーウーウーウーとサイレンが、お前やばいぞと警告する。
 ウーウーウーウーと鳴り響くサイレンが、お前やばいぞと警告しながら走っている。みんなに言っているわけじゃない。やばい人に言っている。
 
 
 
 電信柱に「鳥をさがしています」という張り紙があった。
 
鳥をさがしています。
2017年8月31日、不注意で文鳥を逃がしてしまいました。
メスです。
くちばしが少し白くなっているところがあります。
白羽まじりの頭です。
背中右に一枚白い羽があります。
サイズはスズメ大です。
名前はごましおです。
人の声に反応する、手ノリです。
逃がしてしまった場所は×××二丁目です。
見つけてくださった方にはお礼させていただきますので、
最寄りの交番か×××−××××-××××まで、
もしくはbuncho_sos@××××××.co.jpまでご連絡ください。
お願いします。
 
 
 
 僕は張り紙の前で立ち止まって全部読んだ。こんな張り紙をじっくり全部読むのは散歩中のじいさんとか、よほど暇なやつだけで、僕は今よほど暇なやつだった。これが新築分譲の張り紙でも同じように読んだかもしれない。これが「新築分譲」じゃなく「鳥をさがしています」だったのはたまたまのことで、「鳥をさがしています」だから読んだのではない。たまたま読んだら「鳥をさがしています」だっただけのことだ。読んだからって鳥を探す気もないし、そもそも見つかるわけがない。僕は鳥に詳しくないから、文鳥を見て「あ、文鳥だ」とは思わない。「あ、鳥だ」と思うだけだ。もし奇跡的に「文鳥だ」と思って手を伸ばしたとしても、鳥なんて捕まえられるはずもない。
鳥は見つからない。鳥は捕まらない。鳥は戻ってこない。
 
 張り紙はあっちこっちの電信柱に貼ってあった。それを見つけるたびに「見つかりっこないよ。」とか「見つかるわけないって。」「無理だって。」なんて声に出さずにつぶやいていたら、いつの間にか僕は世界で一番冷たい人間になったのだという気がしてきた。お父さんお母さんに申し訳がないけれど、こうなってしまったのはもう仕方のないことで、きっと誰のせいでもない。
 
 
 
 ウーウーウーウーサイレンが鳴っている。さっきよりだいぶ近い。月はまだでかい。でかいサミットの看板よりでかくて、ちょっとだけ高い。月はこれより上に上がるのだろうか。下に下がるのだろうか。僕は世界で一番冷たい人間だから、月が上がろうが下がろうがどっちでもいいと思ってやることにした。