KATOUICHIKOU

text ttxe txet extt xtet xtte tetx etxt ttex ettx

クウキトメトロ 1

 地下鉄は駅で停まっている。ここがどこの駅なのかを僕は聞いてなかったし、目は開けていたけど、何を見ていたのかはわからないというような、そんな感じでぼーっとしていたから、地下鉄がこの駅で停まって、なかなか動き出さないなぁとか、おかしいなぁとか、そういうことを思い始めたのも今やっとのことで、それはこの地下鉄に乗っている人たちの中で、寝ている人を除けば、かなり最後くらいに気がついたのではないかと思う。

 いつもの駅で乗り込んでから、いったい幾つの駅を通過してきたのかもわからない。僕が降りる駅は終着駅の一つ手前で、それはまだまだ先のはずだから、今がどこの駅かとか、あと何駅やり過ごせばいいかとか、そんなことはいちいち気にしていられない。ここまではまだ、人の乗り降りがそんなに多くなかったような感覚があるから、赤坂見附までも行ってないのではないかと思う。ただその感覚が今この時のものなのか、今朝出勤した時のものなのか、それとも昨日のものだったのかに関しては、あまり自信がない。

 たぶん、もう五分くらいは停まったままになっている。僕はホームに背を向けて立っているからそっちの方は見えてはいないのだけど、車内でうっすらと冷たい空気の流れがあって、そのために、ドアが開いているのだとわかる。マフラーは巻いているけど、寒いから、どちらかと言うと閉めてもらった方がありがたいと個人的には思う。降りようと思った時に降りられないのは困るだろうから、多くの人にとっては、ドアは開いていた方がいいのかもしれない。今のところ、僕に降りようという気はない。

 この時間、地下鉄はたっぷりと混んでいる。つり革につかまって立っている僕の背中にも人がぴったりと密着していて、その人の体温が伝わってくる。右の肩甲骨の下のあたりに何か硬いものが当たっている。痛いというほどではないから、それはそんなに気にしてはいない。

 少し熱っぽくて、風邪なのか、そのために溜まっている仕事をほったらかして帰るということがどういうことかを、漠然と、脳みその半分か、三分の一くらいを使って考えている。本当はそんなことを考えるということに何か意味とか、結論みたいなものなんてないのだろうなとわかってもいるから、考えるというよりはただ、熱があるから仕事をほったらかして帰るということはどういうことか、という言葉を、大鍋にたっぷりと入っているスープをザルでさらって、何度さらってもザルの網目から漏れていく様子を眺めているというような感じで、繰り返し、さらい続けているだけだったりする。それをひとまとめにしてぼーっとしていると言うことにして、それはさほど間違ってはいないと思う。そういう、さらい続けるというようなことが僕にはよくあって、乗り物に乗っている時なんかには割と多いかもしれない。こういうのって僕だけじゃなく、きっと他の人も、今も、僕の隣の、窓の上のところの、英会話か、エステの広告をずっと、乗り込んで来た時から見続けているこのおばさんも、広告の文字をひたすらにさらっているところなのだと思う。たぶんそういうのって、珍しいことではないのだと思う。

 卓球をしているような、コン、コン、コン、コンというような、でもペコ、ペコ、ペコとも聞こえるような、そんな規則的な音が、どこかから小さく聞こえている。それが何の音なのかはわからない。